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   赤縄

   人物
 加納圭吾(26)
 町田綾(24)
 佐伯真理(26)

〇デパート・通路
   加納圭吾(26)と町田綾(24)がそれぞれの片手を縄でつないだまま歩いている。
綾「お昼何食べようか」
加納「喫茶店行く?」
綾「すごい、私も行きたいと思ってた!」
加納「俺も綾が行きたいだろうなって思ってた」
綾「嬉しい! 以心伝心?」
   加納に寄り添う綾。縄でつながれた男女が遠くを歩く。

   加納とすれ違う佐伯真理(26)。振り返る加納。

   真理が加納を振り返っている。

綾「圭ちゃん、今の人知り合い?」
加納「違うよ」
綾「じゃあなんで見たの? 気になった?」
加納「そんな訳ないだろ。知り合いに似てただけ」
   振り返ろうとする加納を引っ張り寄せる綾。
綾「私だけ見れてばいいでしょ?」
加納「そうだね。ごめん」
   綾と腕を絡ませる加納。歩いていく。

 

〇同・トイレ前
   壁に貼られた女性用のプレート。
   加納が腕の縄を垂らし、ジュースを飲みながら立っている。
   真理が歩み寄ってくる。
真理「圭吾君?」
加納「あ、やっぱり真理ちゃん」
真理「久しぶり」
   加納の縄に目を落とす。
真理「彼女さん、縛るタイプなんだ」
加納「心配性だからね」
真理「じゃああんまり話すとまずいか」
   離れようとする真理。
加納「あ、来月の同窓会行く?」
真理「行く。圭吾君は?」
加納「俺も行くと思う」
真理「楽しみにしてるね」
   去っていく真理。
   綾がトイレの壁際に立ち、加納を睨んでいる。
   椅子に並んで座る加納と綾。加納の腕にきつく縄が結ばれる。
加納「痛い! きつすぎるよ」
綾「そう? 私はこのくらいの方が落ち着くけど。圭ちゃんは違うんだ」
   自分の腕に縄を結ぶ綾。
加納「いや。この方が離れないよね」
   綾、加納にぐっと顔を寄せる。
綾「離さないから」
加納「ひょっとしてなんか誤解してない?」
綾「別に。ちょっと買い物行こうか」
   立ち上がる綾。引っ張られる加納。
加納「綾、危ないって!」
   立ち上がる加納。

 

同・アウトドア用品店前
   椅子に並んで座る加納と綾。加納の傍にペットボトルと、封の開いた赤縄の商品袋。
   綾が真新しい赤縄で加納の足を結んでいる。綾の片足にも結ばれた縄。
加納「俺何か悪いことしたかな?」
綾「別に? 嫌なの? 私はこの方が安心するけどな」
加納「何か誤解されてる気がするんだけど」
綾「へえ。誤解されるようなことしたんだ」
加納「だからしてないって!」
   ペットボトルの蓋を開ける加納。
   綾、腕の縄を引っ張る。ボトルの中身がこぼれる。
加納「何すんだよ!」
綾「真面目な話してる時にジュース飲むのおかしいよね?」
加納「おかしいのはお前だろ!」
   激しくボトルを置く加納。足の縄をほどこうとする。
綾「そっか。やっぱりそういうことか」
   腕の縄をほどく綾。
綾「さっきの人連れてきて。私が結んであげる」
加納「だから違うんだよ。さっきのは昔の同級生で」
   足の縄をほどく綾。
綾「そっか。仲良かったんだろうね。私といる時よりずっと楽しそうだったよ。付き合ってたの?」
加納「違うって!」

綾「じゃあね」
   立ち上がる綾。去っていく。

 

〇同・屋上
   ベンチに座っている綾。
   縄で腕をつないだ真理と加納がやって来て隣に座る。加納の足には真新しい縄。
加納「結んでみた」
綾「わざわざ見せつけにきたんだ」
加納「まあね」
綾「ふざけないで!

   加納を押す綾。加納の腕の縄がほどける。

   綾、加納の顔を見上げる。
加納「そんなに強く結べないんだよ」
真理「遠慮しちゃうよね」
加納「ね。跡が残ったら悪いし」

   真理、腕から縄をほどき綾に渡す。
   加納、綾に縄の跡が残った腕を出す。
加納「もう一回綾と結んでくれない?」

   加納の腕をぐっと縛りつける綾。歯を食いしばった加納の顔を見上げる。

   歯を見せて笑う加納。
   加納の手足の縄をほどく綾。両腕を下げて加納にもたれかかる。
綾「この方がいい」
   加納、綾の肩を抱く。 
   真理、ベンチの後ろで二本の縄を結び合わせ、加納と綾の体を縛りつける。
真理「お幸せに」
   歩いていく真理。
                                              (終わり)

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